2019-08-19から1日間の記事一覧

林檎(第5回)

土曜日は午前中で仕事は終わりである。一日と半日は大きな違いだ。午前中だけだと半日分の体力が残っているという感じだった。僕たちが部屋に戻ってくると、現場監督の青木さんが金庫を片手に現れた。土曜日は流れ人夫の僕たちにとってはうれしい給料日であ…

林檎(第4回)

僕は毎日土砂を運んでいるうちに少しずつ仕事にも慣れてきた。みんなの名前も覚えたし、酒の席でもすこしずつだが輪の中に入れるようになった。ある晩、いつものようにみんなと酒を飲んでいると後ろから背中をたたかれた。振りかえってみると吉田爺さんだっ…

林檎(第3回)

翌日、寝苦しさで目を覚ますと2階の大部屋には僕だけだった。山本たちの姿もない。薄いトタン屋根から熱がしみだして蒸し風呂とはまさにこれのことだ。さらに昨晩の酒がまだ全身に残っていてまるで動けない。枕元にはヘルメットと軍手が置かれている。しばら…

林檎(第2回)

僕たち3人はプレハブ小屋の1階に通された。そこは食堂で30人ほどが食事ができるスペースだった。安川さんは僕たちにテーブルに座るように勧めると厨房に入って行った。しばらくして女性二人を従えて出てきた。どうやら夕食の準備をしていたらしい。安川…

自由研究:福島市笹谷地区の近代化の歴史

■はじめに 国土地理院は地勢調査のために日本全国を対象とした詳細な航空写真を過去から保有しており、それを一般に公開している。そのデータをもとに、福島市笹谷団地とその周辺の戦後の歴史をさぐろうというのがこの試みの目的である。特に60~70年代の高…

蜃気楼の少女

息が凍りつくように冷たい朝、長い坂道を上り詰めたところに水平線が望める小高い丘がある。君は毎朝、そこに立って沖をゆく白い船の影を見つめている。風にひるがえる麦わら帽子を押さえながら海からの照り返しを受けている。傍らではふさふさとした毛の子…

村祭り

仲間たちに告げることなく君と二人で訪れたひなびた山奥の村祭り。ほのかな提灯の灯りに集う年老いた人たち。少しだけさびしげな太鼓の音が響き、忘れ去られた思い出のように老いた歌声が流れる。老婆に従われた子供が僕たちに歩み寄って酒をふるまってくれ…