林檎

林檎(第6回)

とうとうこの仕事も終わりが近づいてきた。一輪車の運転も自分でもわかるくらい上達した。いろいろな人から「腰が入ってきたな」と言われるようになった。最後の晩は、僕を含めてこの飯場をあとにする人たちの送別会だった。とは言っても普段と何も変わらず…

林檎(第5回)

土曜日は午前中で仕事は終わりである。一日と半日は大きな違いだ。午前中だけだと半日分の体力が残っているという感じだった。僕たちが部屋に戻ってくると、現場監督の青木さんが金庫を片手に現れた。土曜日は流れ人夫の僕たちにとってはうれしい給料日であ…

林檎(第4回)

僕は毎日土砂を運んでいるうちに少しずつ仕事にも慣れてきた。みんなの名前も覚えたし、酒の席でもすこしずつだが輪の中に入れるようになった。ある晩、いつものようにみんなと酒を飲んでいると後ろから背中をたたかれた。振りかえってみると吉田爺さんだっ…

林檎(第3回)

翌日、寝苦しさで目を覚ますと2階の大部屋には僕だけだった。山本たちの姿もない。薄いトタン屋根から熱がしみだして蒸し風呂とはまさにこれのことだ。さらに昨晩の酒がまだ全身に残っていてまるで動けない。枕元にはヘルメットと軍手が置かれている。しばら…

林檎(第2回)

僕たち3人はプレハブ小屋の1階に通された。そこは食堂で30人ほどが食事ができるスペースだった。安川さんは僕たちにテーブルに座るように勧めると厨房に入って行った。しばらくして女性二人を従えて出てきた。どうやら夕食の準備をしていたらしい。安川…

林檎(第1回)

僕たち三人がT市の駅に降り立ったのは真夏の昼下がりのことだった。僕たち三人をおろすと汽車はかげろうにゆれて緩やかなカーブの中へと消えていった。向こう側のホームでは駅員が一人、汗をぬぐいながらホースで水をまいている。僕たちはバッグをベンチに…