ご近所奇譚
長男が3歳だったのころのエピソードである。彼にはその当時不思議な力があった、と私は今でも確信している。
■公園墓地
ある晴れた秋の日、私は彼と二人で近所の公園墓地を散歩していた。
二人並んでいくつもの墓の前を通り過ぎた。彼はふと足をとめると見ず知らずの人のお墓の前でしゃがみこんだ。そして目をつむって小さな手を合わせた。私は後ろに立ってそれを見ていたのだが自然に独り言がもれた。
-そういえば、最近、実家の墓参りをしていないなあ。
彼は手を合わせたまま背中でぽつりと言った。
-今、おばあちゃんと話をしてるんだよ。
そして振り返るとこういった。
-お父さん知らないの? お墓はね、地面の下で全部つながっているんだよ。
■顔
彼と二人で近所を散歩していたときのことである。彼は道の途中で急に立ち止まって動かなくなった。そして指を目の近くに持っていったかと思うと、道の右手に広がる竹やぶの上のほうを指差したままじっと一点を見ている。
-あ、顔。
彼はそう言って、そのままじっと動かなかった。私もその方向を目で追ったが何も見えない。竹やぶが風にゆっくりと揺れているだけだった。しばらくして彼がまた言った。
-あ。
私も竹やぶのほうをみていたのだが、何も変わったことはない。
ー2つになった。
思わず私は彼を抱きかかえて、逃げるようにして今来た道を走り去った。
■夢の家
ある朝、彼の泣き声で目を覚ました。どうやら怖い夢をみていたらしい。ようやく泣きやんだ彼を連れて河原の道を散歩した。二人で土手の芝生に座って野球に興じる少年たちを見ていた。
-夢の中で川が出てきた。
彼は夢のことをぽつりぽつりと語り始めた。
ー暗い森の中に一人でいたの。はだしで。いくら歩いても何も見つからないの。でもやっと明るい場所に出たら、小さな川が流れていて、その横に小さな家があった。ドアが開いてそこからお父さんが出てきた。うれしくて泣いちゃった。
ーところで、
彼は急に怪訝そうな表情になってこう言った。
ーお父さん、あの家でいったい何をしていたの?