初心忘るべからず

世阿弥の「風姿花伝」を読んでいてこの一文を見つけた。

されば、初心よりの以来の、芸能の品々を忘れずして、その時々、用用に従いて取り出だすべし。若くては年寄りの風体、年寄りては盛りの風体を残すこと、珍しきにあらずや。しかれば、芸能の位上がれば、過ぎし風体をし捨てし捨て忘るる事、ひたすら、花の種を失うなるべし。その時々にありし花のままにて、種なければ、手折れる枝の花のごとし。種あらば、年年時々の比に、などか逢わざらん。ただ、返す返す、初心忘るべからず。されば、常の批判にも、若き為手をば「早く上がりたる」「劫入りたる」などとほめ、年寄りたるをば「若やぎたる」など、批判するなり。これ珍しき理ならずや。十体の内を彩らば、百色にもなるべし。その上に、年々去来の品々を、一身当芸に持ちたらんは、いかほどの花ぞや。

 
よく耳にする「初心忘るべからず」は世阿弥のここから引用されていたのだった。

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