深夜オフィスの怪
先日、仕事上のトラブルの対応で、オフィスで夜を明かした。たった一人で。
深夜のオフィスは昼間の喧騒とはうって変わってしーんと静まり返っている。電話もならなければ、話し声一つ聞こえない。
このオフィスビルには喫煙所は1階にしかない。私がいるのは高層階にいるのでときどきエレベーターで降りて行かないといけない。その日はエレベーターでも喫煙所でも誰ともすれ違わなかった。ひょっとすると今この時、このオフィスビルには私は一人しかないのかも、と思う。
深夜の3時を少し回ったころのことである。喫煙所でタバコを吸って席にもどろうとしたのだが、1階まで降りてきたついでにトイレに行ってみようと思った。1階には大きなレストランがあってその入り口に確かトイレがあったことを思い出したからだ。
レストランフロアを見るとそこは薄暗く誰もいない。トイレへと向かって足を踏み入れた途端、動きを検知してトイレの蛍光灯が点灯した。中に入る。シーンとしている。そこで大用の個室を見る。5つ並んだ個室の扉はすべてしまっている。個室の前を歩いて鍵を見て驚いた。5つの個室の鍵はすべて赤色、つまりすべて使用中だったのだ。
しかし、何の物音もしない。人のいる気配も感じない。私は思わず咳払いしてみる。それでも反応はない。偶然こういうこともあるのか、と私は小用を達しながら考えていたが、突然大事なことを忘れていたことに気が付いた。
私がここに入るついさっきまでここは真っ暗だったはずだ・・・
私は背筋が凍りつくような寒気を感じてトイレを飛び出した。自分の席に駆け戻ると荷物をまとめて逃げるようにしてオフィスを後にした。